【後編】無修正の〇〇〇を求めて国立国会図書館へ行った話。
ハロー、オタクキッズ諸君。
まず、今回の記事は下ネタ満載の最低な記事であることを断っておく。
タイトルを読んだ段階で不快になった方はここで読むのを止めることを推奨する。
女性や下ネタに耐性がない人などは不快になる恐れがあるので、要注意。
■前回の話
■前回のあらすじ
ちひろが図鑑を借り、とうとう読めるかと思いきや、図鑑は専用エリアでのみ閲覧が許されている禁書だということを知る。禁書を借りていない俺は、邪悪な職員の手によって専用エリアから追い出されてしまう。専用エリアへ入るため、そして念願の図鑑を読むために俺自身も禁書指定されている書籍を借りることになった。
書籍の検索端末へと向かい、禁書を借りようとしたのだが、そこで一つ大変なことに気付いてしまった。
何度も言うように、専用エリアに入るために禁書指定の書籍を借りる必要があった。
だが、一体どの書籍が禁書に指定されているのか、俺は知らなかったのだ。
そもそも、禁書かどうかについては国立国会図書館が検閲し、独自のルールのもと、決めているものだった。
しかし、「国会図書館が決めた禁書はコレです」と禁書リストを公開しているわけではないし、検索端末にも禁書かどうかを判別するマークが付いているわけでもなかった。
書籍を借りる際に、もしそれが禁書であった場合のみ、「受け取り窓口が異なる書籍です」という警告が表示されるくらいで、その警告が出て初めてそれが禁書かどうかを知ることが出来るのだ。
つまり、この膨大な書籍の中で、禁書指定されていそうな本にあたりを付け、予約ページまでいって禁書かどうかを確認し、見事に禁書を引き当てるという作業が必要だった。
俺は端末の検索欄に、思いつく限りの卑猥なワードを入力した。
検索結果に出てきた書籍を上から順番に予約しようとするが、どれも禁書指定の警告が出なかった。
意外と寛容、国立国会図書館。
しかし、考えてみれば、元々国立国会図書館は、成人していないと利用が出来ない特別な施設だ。
そんな施設で禁書指定されるには余程内容がドギツイものでないとダメだろう。
思いつく限りの単語を叩き込み、予約ページまで行くが、禁書は見つからず時間だけが過ぎていった。
もはや、禁書を見つける手段がないように思えたが、唯一俺が知っている、そして禁書であることが確定している書籍が一つだけあった。
「図鑑だ・・・ッ!!!」
前編の冒頭にも書いたが、図鑑には旧版と新版の二つが存在していた。
つまり、ちひろが借りていない方を借りてしまえばよいのだ。
震える手で検索窓に図鑑の正式名称を入力しようとした途端、突然後ろから声をかけられた。
振り返ると、そこには禁書専用エリアにいたはずのちひろが立っていた。
「あれ…?どうしてちひろさんがここに?専用エリアにいたはずじゃ?」
「ゆうやくんが遅いから図鑑返してこっち(一階)に戻って来ちまったよ」
そう言われて時計をみてみると、俺が専用エリアを追い出されてから30分が経過していた。どうやら俺は、30分も検索端末に卑猥な単語を打ち続けていたらしい。
「専用エリアに行きたかったけど、エリアに入るための禁書が見つからなくて探していたんですよ。で、今ちょうど図鑑の別版借りて専用エリアに入ろうとしてたところw」
「それなら残っておけばよかったか。え、てか、今から借りるの?時間的にそろそろ閉館だよ。」
閉館まで90分を切っていた。書籍が用意されるまで30~40分ほどかかるとしても、多少は読む時間が残されていた。
「まあ、せっかくここまで来たんでね。ちょっとだけでも読んでおかないともったいないので行きますよ。ちひろさんこそ図鑑はもういいの?」
「俺は十分読んだからいいかな。」
「マジか。一人で借りるの嫌だなぁ。一人だと面白くないし。もう一回借りて一緒に行きましょうや。」
「嫌だよw二回も借りたら変態だと思われちまうよw」
女性声優の写真集と一緒に借りているのに今更何を、と思った。
「まあ、一回借りている時点で変態でしょ。こんな図鑑。中々ここまでくる機会ないんだから付き合ってくださいよ。」
仕方ないな、と何だかんだで付き合ってくれることになった。
先ほど旧版を借りたちひろは新版を、俺は旧版を借りることになった。
せっかくなので、他にも禁書っぽい本を借りようと、『ま』の検索結果から卑猥な書籍を借りようとしたのだが、「その辺にあるのは借りたけど全部微妙だったからやめたほうがいいよ」と助言された。
『ま』、大好きやないかい。
ちひろが先ほど借りたのもあってか、俺が借りた旧版は20分程で用意された。
改めて俺は専用エリアへと向かった。
非常に長い闘いだったが、これでようやく俺も図鑑を読むことが出来る。
専用エリアの受付窓口には、先ほど俺を追い出した職員がいた。
俺の顔を確認するや否や、「申し訳ございませんがここは専用の書籍を利用されている方しか――――」と警告されようとしたところで、
それを遮り、「いや、今度はちゃんと借りています。」と図書館カードを見せびらかしながら言った。
図書館カードの情報を読み取ったあと、「お前が“コレ”を予約したんかい」とでも言いたげな表情をされた。
職員は受付窓口の奥へ行き、暗い青緑色の本を持ってきた。
ブックカバーが外されていたそれは、Amazonで見たブックカバーからイメージされるものとは違い、大変高級な重量感のある上製本だった。
布クロスでザラザラした表紙は、一層高級な雰囲気を感じさせてくれた。
図鑑を受け取った俺は、狭い専用エリア内で比較的人目につきにくそうな一にある奥野テーブルへと移動した。
図鑑を開く前に、ルーミスとホガースのデッサン本でそれっぽいページを広げた。
そして、「絵の勉強のために女体を研究していますが、なにか?オタクはヌードモデルで興奮するんですか?え?」とでも言いたげな表情を作った。
結局のところ、これはアレな本を参考書や漫画雑誌でサンドしてレジに出す小細工のような、小学一年生レベルのあがきではあるのだが、
狭い専用エリア内は真剣な表情で読書したり、本を開いて黙々とペンを走らせて勉強している人しかおらず、この真面目な雰囲気の中、アウェイな俺が少しでもこの場に馴染もうとする最大限の努力だった。
図鑑を広げると著者のソレに対する想い、情熱が長々とつづられていた。
うろ覚えだが、男性のものは大体同じような形だが、女性のそれは一つとして同じ形のものが存在しないだとか、神秘的だとか、海外と日本の女性のそれに対する価値観の違いなどが書かれていた。
説明書はじっくり読むタイプなので、この著者が、傾奇者が、どのような想いを秘め、この本を作ったのか大変興味があったが、残念ながら図書館の閉館時間を考えると、じっくり読んでいる時間はない。文章の部分は流し読みした。
そしていよいよ、写真のページへと突入した。
写真ページには、1ページあたり、4~6枚くらいで、ソレが開いた状態の写真が掲載されていた。
出版日を考えると当時としてはかなり高画質で鮮明な写真だった。
写真も一枚一枚大きく、、存在感があった。
「リアルだな」と思った。
スケッチではない、写真が使用されているためリアルであるのは当然なのだが、そういう意味での“リアル”と思ったわけではなかった。
女性のソレにのみフォーカスして、そして“性”という概念に肉薄するかのような、ヒトという生物のなまなましさ、そういう意味でのリアルさを感じた。
しかし、ふとした瞬間に、「俺は何をやっているのだろう。」と思った。
禁書エリア内は静寂に包まれていた。時折、ペンが紙越しに机を叩く音が聞こえるくらいで、この部屋だけ時間が止まったかのような静けさだった。
そんな空間で、こんな図鑑を読んでいる俺の異質さ。デッサン本を広げてカモフラージュしているシュールさ。
ストリップと同じで、こういうものは逆に性的興奮を抱かないものだ。
だが、性的興奮を抱かないことが俺にとっては悪い方向に働いた。
見開きいっぱいに「ドドドドドン!!!」と女性のそれが載っているのは大変異様な光景だった。
正直、何も動じずに読み切る自信があったが、静かな空間で絶対に笑ってはいけない雰囲気の中、笑いがこみあげてきた。
なんとか堪えようとしたが、我慢が出来ず、ついには少しだけではあるが笑ってしまっていた。「ッツウ」と風船から空気が抜けたような声が漏れたが、過剰に咳をしてむせたように演出した。
唇を、血が出るんじゃないかというくらい強く噛み、笑いを必死にこらえながら読み進めた。
そんな折、ちひろが入室してきた。
こちらを一瞥して、受付から新版の図鑑を受け取ると、ニヤニヤしながら俺のテーブルへ向かってきた。
ただでさえ、声を出して笑ってしまいそうなのに追い打ちをかけられたら、いよいよどうにかなってしまう。
唇を一層強く噛んで、腕を思いきりつねった。
しかしそれでも、肺や肩が痙攣したかのように小刻みに震え、自分ではどうしようもないと思うくらい我慢の限界を感じた。
(後になって判明したが、俺がニヤニヤしながら必死に笑いをこらえているのに気付き、釣られて笑いそうになっていたのを堪えていたとのこと。お互いがお互いのニヤニヤしている姿を見て我慢していたらしい。)
俺の隣の席に着くと、ちひろはいきなり写真ページを開いた。
「著者の文章は興味ないの!?」とビビる俺、そして写真以外興味ないという態度が面白く感じてしまい、笑い地獄に落ちてしまいそうになった。
しかも、恐ろしい速度でページをめくりはじめたのだった。
見開きページで、写真しか載っていないが、それでも10秒も見ずにページをめくる。
元々ちひろは大変な読書家で、読むスピードが俺よりも遥かに速いのは間違いない。
しかし、それを抜きにしてもあまりにもページをめくる速度が速い。まるで速読だった。映像記憶でもしているのかというくらい、一瞬でページをめくっていった。
一方、俺の読む速度は非常に遅い。
図鑑4、ルーミス3、ホガース3、くらいの配分で読んでいた。
元々、じっくり読むタイプの人間なのもあって、牛歩の歩みで読んでいた。
ちひろがあまりの速さで読み進めるので、「ちゃんと読まないんですか?」と小声で尋ねた。
ちひろは図鑑に目を向けたまま、「じっくり読むと全部読めないしな」と答えた。
その速度にいたく感心し、「確かにそうだな」と思った俺は、ルーミスとホガースのデッサン本を閉じ、図鑑を読む速度をはやめた。
時間が経ち、いよいよ閉館間近となった。
後半は図鑑に専念し、かなり読書スピードを上げたものの、文章ページも速読で読もうとしてしまったのもあり、図鑑の四分の一も読めていなかった。
一方、ちひろは、本人の読書スピードや、新旧二回借りたのもあって写真ページにはすべて目を通せたらしい。
国立国会図書館を出た俺たちは、雨が降る道を歩きながら、感想を言い合った。
「てか、思いのほか内容がエグくて笑いましたわwあとちひろさんの読む速度がはやすぎて声出そうになりましたわ」
「マジで想像以上だったなwちょっと濡れてテカってるから笑いそうになったわw」
「しかも結構写真も鮮明で大きかったですよね。古い本だからもっとショボいもんだと思ってたけど」
「国会図書館に来るだけの価値はあったよな。俺、いつかあの本買うわw」
「えっ!?あの本、ウン万円するんですよ!?てか、俺ら別に医療関係者でも研究者でもなんでもないから買えないんじゃないんですか?」
「いや、それが調べたら個人の研究目的で全然買えるらしいよ。だから絵を描くとか、そういうのでも普通に買えそうだよ」
個人の研究目的ってなんだよ、と思いながら、俺たちは雨の中を帰っていった。